萩原朔太郎展

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1211月
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萩原朔太郎展のポスターを見ました。

http://setabun.or.jp/exhibition/sakutaro/

フラッシュバック!

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孤独な高校時代

うちにあった
彼の詩集に
何故かはまってしまった。

大正時代の詩人にはまるなんてあれが最初で最後だった

絶望的なんだけど
リアルに響いて生々しい言葉に
惹かれたのだろう

僕の好きな詩を
いくつか紹介しておこう。

今読んでも生々しさ、斬新さは変わらないよね〜〜!

もっと彼の詩を読んでみたい人は
http://d.hatena.ne.jp/adokenaihanashi/20100202/sakutarou
こちらへどうぞ↑

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【夜の酒場】

夜の酒場の
暗緑の壁に
穴がある。
かなしい聖母の額《がく》
額の裏《うら》に
穴がある。
ちつぽけな
黄金虫のやうな
秘密の
魔術のぼたんだ。
眼《め》をあてて
そこから覗く
遠くの異様な世界は
妙なわけだが
だれも知らない。
よしんば
酔つぱらつても
青白い妖怪の酒盃《さかづき》は、
「未知」を語らない。
夜の酒場の壁に
穴がある。

【山に登る】
旅よりある女に贈る

山の頂上にきれいな草むらがある、

その上でわたしたちは寝ころんでゐた。

眼をあげてとほい麓(ふもと)の方を眺めると、

いちめんにひろびろとした海の景色のようにおもはれた。

空には風がながれてゐる、

おれは小石をひろって口にあてながら、

どこといふあてもなしに、

ぼうぼうとした山の頂上をあるいてゐた。

おれはいまでも、お前のことを思つてゐるのだ。

【遺傳】

人家は地面にへたばつて
おほきな蜘蛛のやうに眠つてゐる。
さびしいまつ暗な自然の中で
動物は恐れにふるへ
なにかの夢魔におびやかされ
かなしく青ざめて吠えてゐます。
のをあある とをあある やわあ

もろこしの葉は風に吹かれて
さわさわと闇に鳴つてる。
お聽き! しづかにして
道路の向うで吠えてゐる
あれは犬の遠吠だよ。
のをあある とをあある やわあ

「犬は病んでゐるの? お母あさん。」
「いいえ子供
犬は飢ゑてゐるのです。」

遠くの空の微光の方から
ふるへる物象のかげの方から
犬はかれらの敵を眺めた
遺傳の 本能の ふるいふるい記憶のはてに
あはれな先祖のすがたをかんじた。

犬のこころは恐れに青ざめ
夜陰の道路にながく吠える。
のをあある とをあある のをあある やわああ

「犬は病んでゐるの? お母あさん。」
「いいえ子供
犬は飢ゑてゐるのですよ。」

【死なない蛸】

ある水族館の水槽で、ひさしい間、飢えた蛸が飼われていた。
地下の薄暗い岩の影で、青ざめた玻瑠天井の光線が、いつも悲しげに漂っていた。

だれも人々は、その薄暗い水槽を忘れていた。
もう久しい以前に、蛸は死んだと思われていた。
そして腐った海水だけが、埃っぽい日ざしの中で、いつも硝子窓の槽にたまっていた。

けれども動物は死ななかった。
蛸は岩影にかくれていたのだ。
そして彼が目を覚ました時、不幸な、忘れられた槽の中で、幾日も幾日も、恐ろしい飢餓を忍ばねばならなかった。
どこにも餌食がなく、食物が尽きてしまった時、彼は自分の足をもいで食った。
まづその一本を。
それから次の一本を。
それから、最後に、それがすっかりおしまいになった時、今度は胴を裏がえして、内臓の一部を食いはじめた。
少しずつ、他の一部から一部へと。
順々に。

かくして蛸は、彼の身体全体を食いつくしてしまった。
外皮から、脳髄から、胃袋から。
どこもかしこも、すべて残る隈なく。
完全に。

ある朝、ふと番人がそこに来た時、水槽の中は空っぽになっていた。
曇った埃っぽい硝子の中で、藍色の透き通った潮水と、なよなよした海草とが動いていた。
そしてどこの岩の隅々にも、もはや生物の姿は見えなかった。
蛸は実際に、すっかり消滅してしまったのである。

けれども蛸は死ななかった。
彼が消えてしまった後ですらも、なおかつ永遠にそこに生きていた。
古ぼけた、空っぽの、忘れられた水族館の槽の中で。
永遠に——おそらくは幾世紀の間を通じて——ある物すごい欠乏と不満をもった、人の目に見えない動物が生きていた。


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